MQLセミドライ加工システム-Minimum Quantity Lubrication-

技術論文

ブルーベ最少潤滑油システムによるMQL加工

ドライ加工の必要性

ドイツ、北欧では切削油を使用しない加工方法が危急の課題として研究されている。切削油に対する規制が年々強化され、切削油全体に関わるコストが上昇しているからである。ISO14000を始めとする切削油の管理強化の動向があり、切削油のたれ流しはもちろん、機械外部に油がこぼれることがないよう、使用後のウエスの管理にいたるまで規制が強化されている。最終的には、廃油を出さない工夫が必要になり、ドイツでは廃油からスラッジ(汚泥)を除去し、切削油のリサイクルが行われている。

ヨーロッパにおける環境重視の動向を見ると、将来的には完全なドライ切削がのぞまれるが、完全なドライ化は工具寿命や精度、面粗度の点で克服しなければならない課題が多く、当面は現状よりも環境に負荷を与えない切削油の使用方法に移行していくものと思われる。特に、これまで大量の切削油を使用していた方法を見直し、切削油の適量化、微量化また供給場所のピンポイント化が検討されている。この加工方法はMQL(Minimunm Quantity Lubrication 最少量潤滑)とかNDM(Near Dry Machining 準ドライ加工)といわれている。

セミドライ加工 ブルーベ

MQLの動向に一つの解決を与えるのが「ブルーベ最少潤滑システム」である。ブルーベは、切削油の微量化と供給方法のピンポイント化により、ドライ加工化(セミドライ化)を行なうもので、最少微量の高潤滑切削油を刃先のピンポイントに塗布し加工するものである。高い潤滑性をもった切削油と、最少適量の油を正確に供給する給油機との組み合わせによる、切削油システムである。もともとは、この加工方法はアメリカの航空宇宙産業で難削材加工のために開発されたものである。
ブルーベの特徴は以下の通り。

  1. ブルーベ専用給油装置により、極く微量のブルーベ切削油をミストにして刃先に塗布する。油剤消費量は2~10cc/時間という微量で、限りなくドライに近い加工が可能になる。また、工場の油によるベタツキがなくなり、工場環境は向上し、加工点を目視して加工できる。切り屑はかわいているため、アルミのような軽量の切り屑は収塵しやすくなり、また、他の材質でも切り屑が乾いているためすぐに再溶解が可能になる。
  2. 油剤の使用量がごく微量なため、火災の発生のおそれがない。
  3. 油剤の消費量はごく微量で、完全に消費してしまうため、切削油の濃度管理、腐敗防止管理、廃油処理に関するコストが不要になる。
  4. 使用量が微量なので、ワークに付着する油の量が減り、切削油の洗浄拭き取りが簡易化できる。
  5. ブルーベ切削油の成分は植物油をベースとした無公害、無毒無害、アレルギー性のない、人体に安全な切削油である。
  6. 植物性油なので、生分解性があり、環境中へ放出されても分解する。
  7. 高い潤滑性で、刃先の熱発生を抑え、工具寿命の延長が期待できる。
  8. 防錆効果がある。

MQL実現のために必要なこと

従来大量の切削油を高圧で使用していた切削油を極く微量(1cc/h~10cc/h)まで少なくして加工することは簡単なことではない。MQL加工は新しい加工方法であり、MQL加工を実現するには次のような条件が必要である。

  1. 給油装置マシニングセンタで使用する場合、高速で回転するスピンドル配管内に付着しない細かな微粒子ミスト(ドライミスト)を発生するミスト装置が必要である。
  2. 高性能で安全な切削油 安全で人体に無害、環境に負荷を与えない生分解性のある油剤がもとめられている。しかも、クーラントと比較すると微量の油剤で切削するため、特に潤滑性の高い切削油が必要である。
  3. <切削加工のノウハウ>
    MQL加工は、大量のクーラントを使用する切削と比較して最適な切削条件域が異なるとおもわれる。切削条件の研究が必要なほか、加工方法、油剤のかけ方のノウハウも必要である。また、MQLにはクーラントのような大量の液体による強制冷却の効果がないため、被削材や切削条件と熱発生の関係を調査する必要がある。刃先の熱が刃物、ワーク、切り屑のそれぞれに、どのくらい熱伝導するのかといった基礎研究も重要である。
  4. <工具に関するノウハウ>

    写真1オイルホール付バイト
    (発売元:フジBC技研株式会社)
    ミストに対応した穴径のオイル
    ホールが、逃げ面とすくい面に
    設けられている。

    MQLで使用できる工具は、現状ではわずかしか市販されていないので、クーラント用オイルホール付工具の中から、最もMQLに適した工具を選定せざるを得ない。また、液体クーラントではなく気体ミストに適したオイルホール径付工具の市販が期待される。(写真1)
    また、これまでヒートクラック対策としてクーラント用に開発されていた工具材種やコーティング材種をドライ化対応にしていく必要もある。弊社では工具メーカー、アーバーメーカーにMQL用工具、アーバーの共同開発を呼びかけている。
  5. <データ>
    MQL加工は、次世代加工技術である。まだ、確立された技術ではない。クーラントと比較し、生産性を上げられるか、クーラントに対し、どこまでカバーできるのか粘り強くデータ収集する必要がある。
  6. 工作機械 クーラントによって流していた切り屑の処理方法、熱を持った切り屑による機械の熱変位の防止、ミストを円滑に搬送する配管径及び配管経路の工夫が必要である。

給油装置

弊社では、ブルーベ切削油を最も効果的に、また、極微量供給するための専用給油装置を用意している。

給油装置には内部給油装置用外部給油装置用の2種類がある。
ブルーベ切削油を最も効果的に刃先に供給するためには内部給油が最良の方法である。「エコブースタ(PAT.P)」はブルーベ切削油専用に開発された内部給油用の給油装置である。(写真2)
マシニングセンターのスピンドルスルー、またNC旋盤、専用機など内部スルー給油機能を持った機械設備に搭載する。ミストの出口側は、オイルホール付工具やオイルホール付コレット、オイル用スリット付コレットなどを使用する。
スピンドルスルーでミストを供給する上で最も重要なことは、供給経路の配管内壁に油が付着しにくいこと、また、配管経路が長いため、スイッチオンとほぼ同時にミストが刃先に到達するレスポンスタイムである。ブルーベ エコブースタは、微粒子ミストを発生させ、配管内への付着がほとんどないばかりか、高速スピンドルでのミスト給油が可能である。
また、レスポンスタイムはエアーの到達と全く同じで、ほとんどのスピンドルスルー配管では1秒以内に刃先にミストが到達する。
また、ミスト発生部にポンプを使用することにより、ミスト濃度のコントロール、ミスト量のコントロールが可能である。
ミストの出口側は極小オイルホール工具(穴断面積 約0.4mm2)からスリットコレット(穴断面積 約5mm2)まで、対応が可能である。
また、深穴のドリル加工のように切り粉の排出のために、高めのエアー圧力が必要な場合は、増圧器で増圧したエアーを使用することにより、従来よりも深い穴加工が可能になる。

外部給油の場合は、ブルーベFKタイプ給油機を使用する。(写真3)
外部給油は既設の機械設備に後付けが可能で、最も汎用性のある機種である。
可変型高精度ポンプを内蔵し、ノズルにエアーと油剤を送り込む。オイラータイプのミスト給油機と異なり、エアー量と油量は個別に調整可能である。切削油の消費量は4~8cc/時間・1ノズル と極めて微量で、ノズル先端から切削油が出ている様子は見えないほどの微量である。
FKタイプ給油機はエコブースタとは逆に、ミストの粒形を大きくしている。外部給油の場合、回転する工具の外部から給油するため、回転している工具周囲にはエアーの流れが生じている。大きなミスト粒子は、エアーの流れを突き破って刃先に到達する。また、ミスト粒子が大きいため、ミストが煙ることが少なく、工場の環境を損なわないよう配慮してある。
ただ外部給油方式には、いくつかの限界がある。マシニングセンタの自動工具交換でノズルが干渉することである。また、ドリルやリーマー等の穴加工では外部からは加工点へミストを送り込みにくい。これらの限界は内部給油方式のエコブースターによって、ほとんどが解決できるが、外部給油の場合はステップ加工をするなどの加工方法の変更とあわせて改善していくことが望まれる。

ブルーベエコブースタ 内部給油用給油装置 FKタイプ外部給油用給油装置
写真2 ブルーベエコブースタ 内部給油用給油装置 写真3 FKタイプ外部給油用給油装置
切削油消費量 2~10cc/時間 切削油消費量 4~8cc/時間
作動エアー圧力 4~10kgf/cm2 作動エアー圧力 4~10kgf/cm2
    使用エアー量 60リットル/分
オイルポット容量 1200cc オイルポット容量 300c/950cc/1.9L/4.5L
    給油機本体からノズルまでの
ホース長さ
3m(10mまで延長可能)
内部給油方式
内部給油方式
外部給油方式
外部給油方式

切削油

切削油ブルーベ切削油は、主に鋼用と軽金属用がある。LB-1はステンレス、合金鋼、鋼など、LB-10は鉄・非鉄を問わず内部給油機用に使用する。いづれも、植物油ベースの切削油なので人体に安全で、生分解性があるため環境にやさしい切削油である。しかも、非常に高い潤滑性を持っているため、極く微量で効果を発揮する。手作業用バリエーションとして、ペーストや固形も用意されている。

実際の加工

実際の加工ブルーベは日本のマーケットで販売されてから9年半が経過している。既に外部給油機で10,000台の実績があり、数々の加工で実績をあげている。また、社内では、研究専用のマシニングセンタとNC旋盤により、ブルーベの加工データ収集を行っている。
ブルーベが適用される加工は、切削、旋削、研削、切断、プレス等、多岐に渡るが、ここではミーリング加工と旋盤による加工についてふれることとする。

マシニングセンタによる加工でブルーベが最も多く使用されているのは、金型加工である。金型といっても大物プレス型や比較的小物の鍛造型、プラスチック型、ダイカスト型があり、それぞれに最も効率的な加工方法がとられている。ブルーベセミドライ切削は、中でも小物金型の「小切込み・高速・高送り加工法」による金型加工に最適である。

この加工方法は工具と被削材の接触時間と接触面積をできるだけ小さくすることに特徴がある。これは加工点の熱がワークや刃物に熱伝導する前に刃先をワークの外へ出して冷却する方法であり、熱の発生を極力抑えることで、高能率・高精度な加工が可能になる。

小径ボールエンドミルによる金型の仕上げ加工においては、特にブルーベが効果を発揮し、工具寿命の延長、面粗度の向上がはかられ、すでに多くの工場で実用化されている。特に高硬度鋼の切削では工具寿命の延長や焼け付きの防止がはかられている。また、オーバーハングで刃先が逃げやすいコーナー部の加工精度向上に効果を発揮する。

中型の金型では、荒削り時に比較的大きな径のエンドミルを使用して単位時間当たりの切り屑排出量を大きくする。そのため、工具とワークとの接触時間が長く、熱が発生しやすい。しかし、この加工でもかなりの程度セミドライ加工の効果を引き出すことが可能である。経験的にはTiAlNコーティングエンドミルとの相性がよく、工具寿命が延びるケースが多い。また、この加工でも熱発生をできるだけ抑える方法を模索することでセミドライの効果をより多く引き出すことが可能となる。

次に、マシニングセンタによる部品加工について考えていきたい。セミドライ加工は、微量の油剤しか使用しないため、油剤を塗布した表面の加工には適しているが、油剤が回り込んでいかない特徴がある。また、ブルーベ切削油は潤滑性が高く、熱の発生を抑える効果があるが、ごく微量の切削油しか使用しないため、クーラントのような強制冷却の効果は薄い。これらの特徴を踏まえた加工が重要になる。

マシニングセンタによる部品加工では、被削材の材質、加工内容、加工条件により、ブルーベよる加工の難易度はさまざまである。一般材料を工具メーカーの推奨切削条件で加工する上では、たいていの加工がセミドライ加工でも可能である。また、部品加工でも、上記の金型エンドミルによる切削方法のように極力、熱発生を抑えた切削方法が有効である。また、むずかしい加工事例をあげると、A5052に代表されるようなアルミニウムの圧延材では、切り屑が切れずにつながりやすく、この材料の深穴加工では、刃先だけでなくドリル溝全体の潤滑が必要になる。ドライ対応の溶着の起こりにくいドリルの開発が期待される。

旋盤による部品加工では、アルミの加工に関してはダイヤモンド工具を使用して、既に完全ドライ加工(エアブローのみ)を実現している工場もある。ただ、仕上げ面粗度、精度確保にはブルーベを使用すると効果が大きい。また、スチールの加工ではワークに対する熱の蓄積が問題となる。炭素鋼や軟鋼では外径引きだけで40℃、複雑な加工になると60℃程度までワークに熱が蓄積する。親和性の低い工具材種を使用し、周速、切り込みと送りとの関係をかえることにより、熱発生を抑え、クーラントよりも工具寿命を延長した事例がある。

むすび

切削油を取り巻く状況は、環境問題に関する意識の高まりと共に日本においても今後厳しくなっていくものと思われる。今後、切削油の適切な処理または再利用が進むにつれ、処理コストが大きくなることが予想される。既に日本でもダイオキシンの排出規制、廃棄物処分場の不足などを契機に環境保護、廃棄物のリサイクルが進んでいる。しかし、大量のクーラントを極く微量の切削油に置き換えることはそれほど容易ではない。MQLを完成度の高い技術に高めるためには、給油装置、油剤の研究はもちろん、蓄積されたデータとノウハウが必要である。弊社はそのすべてを総合的に研究しており、MQL導入のさきがけとして注目されている。今後も次世代加工技術の一翼として期待されていくことと思う。